10658.jpg
俳優あらわれず「公演中止」 観客は「交通費」も請求できる!?
2013年04月30日 13時15分

東京都渋谷区の新国立劇場で上演されていた舞台「効率学のススメ」が4月21日、急きょ上演中止となるという出来事があった。原因は出演者の遅刻。俳優の田島優成さんが「夜公演と勘違いしていた」らしく、開演時間の午後1時になっても劇場に姿を見せなかったからだ。同劇場のホームページには「ご来場くださいましたお客様に対しまして、多大なるご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます」と謝罪の言葉が掲載された。

当初、観客に対しては、チケットの払い戻しや別日程への振り替えといった対応がとられたが、天災などのやむを得ない理由でもなければ、公演が開演時間直前になって中止になるという事態は滅多にない。ましてや今回は俳優の個人的な過失によるものだ。納得できない観客も多いだろうし、舞台を楽しみに遠方から足を運んだ観客もいるだろう。

そんな観客たちに配慮して、新国立劇場は23日、劇場に足を運んだ観客に「交通費」も支払うと、公式サイトで発表した。報道によると、このような交通費負担は異例のことだという。では、そもそも今回のような公演中止の場合、法的に、観客はどこまで請求できるのだろうか。秋山亘弁護士に聞いた。

●主催者側に「重大な過失」があれば、交通費を請求できる可能性も

「本件のように、主催者側の過失、それも重大な過失による公演中止の場合の損害賠償問題は、チケットの申し込み規約や約款の定めによることが原則となります」

このように秋山弁護士は、チケットに関する規約や約款に注目する。

「そして、多くの規約等には、『公演中止となった場合、その理由の如何を問わず、主催者側はチケットの払い戻しに関してのみ、その損害賠償責任を負う』という趣旨の規定が置かれています。

このような規定によれば、チケットを購入するための交通費や公演場所に行くために要した交通費などの損害賠償の請求は、できないことになります」

そうすると、今回のように「俳優の遅刻」で中止になった場合でも、チケット代金の返還だけで納得しなければならないのか。わざわざ関西から駆けつけた観客は泣く泣く、新幹線代を負担しないといけないのか。

「しかし」と言って、秋山弁護士は次のように続ける。今回は例外的に、交通費も請求できる可能性があるというのだ。

「消費者契約法8条1項2号は、事業者側の『故意又は重過失』により消費者に生じた損害について、賠償責任の『一部を免除』する条項を無効としています。

これは同条1項1号において、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項を無効としていることを受けて、事業者側の『故意・重過失』による場合には、損害の『一部の免除』にとどまる条項であっても無効としたものです」

●「重大な過失」の場合、損害賠償の一部免除条項が無効になる

この点、舞台のチケット申し込みに関する規約条項は、チケットの払い戻しには応じるので、損害の「全部免除条項」ではなく「一部免除条項」にあたるといえる。

となると、問題は、今回の公演中止が主催者側の「重過失」つまり「重大な過失」によるものといえるかどうかだ。もし「重大な過失」といえるならば、損害賠償の「一部免除」を定めた規約は効力をもたなくなる。

はたして、今回はどうなのか? 秋山弁護士の意見はこうだ。

「主催者側の公演者が開催時刻を間違えるという過失は、『重大な過失』に該当すると考えられます。したがって、消費者契約法8条1項2号に基づき、無効になる可能性が高いものといえます」

秋山弁護士は「この種の事案で争われた判例はまだないようですが」と断りつつも、「本件のような事案では、主催者側に交通費等の損害賠償責任が認められる可能性は高いでしょう」と述べている。交通費を負担すると判断した新国立劇場は、誠実な対応をしたと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

東京都渋谷区の新国立劇場で上演されていた舞台「効率学のススメ」が4月21日、急きょ上演中止となるという出来事があった。原因は出演者の遅刻。俳優の田島優成さんが「夜公演と勘違いしていた」らしく、開演時間の午後1時になっても劇場に姿を見せなかったからだ。同劇場のホームページには「ご来場くださいましたお客様に対しまして、多大なるご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます」と謝罪の言葉が掲載された。

当初、観客に対しては、チケットの払い戻しや別日程への振り替えといった対応がとられたが、天災などのやむを得ない理由でもなければ、公演が開演時間直前になって中止になるという事態は滅多にない。ましてや今回は俳優の個人的な過失によるものだ。納得できない観客も多いだろうし、舞台を楽しみに遠方から足を運んだ観客もいるだろう。

そんな観客たちに配慮して、新国立劇場は23日、劇場に足を運んだ観客に「交通費」も支払うと、公式サイトで発表した。報道によると、このような交通費負担は異例のことだという。では、そもそも今回のような公演中止の場合、法的に、観客はどこまで請求できるのだろうか。秋山亘弁護士に聞いた。

●主催者側に「重大な過失」があれば、交通費を請求できる可能性も

「本件のように、主催者側の過失、それも重大な過失による公演中止の場合の損害賠償問題は、チケットの申し込み規約や約款の定めによることが原則となります」

このように秋山弁護士は、チケットに関する規約や約款に注目する。

「そして、多くの規約等には、『公演中止となった場合、その理由の如何を問わず、主催者側はチケットの払い戻しに関してのみ、その損害賠償責任を負う』という趣旨の規定が置かれています。

このような規定によれば、チケットを購入するための交通費や公演場所に行くために要した交通費などの損害賠償の請求は、できないことになります」

そうすると、今回のように「俳優の遅刻」で中止になった場合でも、チケット代金の返還だけで納得しなければならないのか。わざわざ関西から駆けつけた観客は泣く泣く、新幹線代を負担しないといけないのか。

「しかし」と言って、秋山弁護士は次のように続ける。今回は例外的に、交通費も請求できる可能性があるというのだ。

「消費者契約法8条1項2号は、事業者側の『故意又は重過失』により消費者に生じた損害について、賠償責任の『一部を免除』する条項を無効としています。

これは同条1項1号において、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項を無効としていることを受けて、事業者側の『故意・重過失』による場合には、損害の『一部の免除』にとどまる条項であっても無効としたものです」

●「重大な過失」の場合、損害賠償の一部免除条項が無効になる

この点、舞台のチケット申し込みに関する規約条項は、チケットの払い戻しには応じるので、損害の「全部免除条項」ではなく「一部免除条項」にあたるといえる。

となると、問題は、今回の公演中止が主催者側の「重過失」つまり「重大な過失」によるものといえるかどうかだ。もし「重大な過失」といえるならば、損害賠償の「一部免除」を定めた規約は効力をもたなくなる。

はたして、今回はどうなのか? 秋山弁護士の意見はこうだ。

「主催者側の公演者が開催時刻を間違えるという過失は、『重大な過失』に該当すると考えられます。したがって、消費者契約法8条1項2号に基づき、無効になる可能性が高いものといえます」

秋山弁護士は「この種の事案で争われた判例はまだないようですが」と断りつつも、「本件のような事案では、主催者側に交通費等の損害賠償責任が認められる可能性は高いでしょう」と述べている。交通費を負担すると判断した新国立劇場は、誠実な対応をしたと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る